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同時配信がもたらす動画市場の変化
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同時配信がもたらす動画市場の変化

ここ数年にわたり、デジタルコンテンツ消費の加速化につれて、「若者のテレビ離れ」が話題になってきました。従来はテレビで見られていたようなコンテンツもオンラインで視聴されるようになり、各メディアは若年層の視聴時間を確保するためにも様々な施策を取り入れるようになりました。

そのような中で、オンライン上でテレビコンテンツが視聴できる「TVer」などの見逃し配信サービスの利用者数は順調に増加し、各テレビ局はオンラインでの同時配信を開始すると発表しました。海外では様々な動画ストリーミングサービスが発展するのと同時に、各局がテレビコンテンツのオンライン配信に対応し、今ではテレビコンテンツをオンライン上で視聴できる環境は当たり前になっています。

日本でも消費者はマルチスクリーンでのコンテンツ視聴にシフトしていますが、このようなサービスは消費者のメディア視聴にどのような変化をもたらすのでしょうか?


同時配信がもたらす動画市場の変化

(ニールセン デジタル アナリスト コヴァリョヴァ・ソフィヤ)

オンラインでのコンテンツ提供はテレビ視聴時間を奪うのか?

テレビコンテンツを提供する企業にとって、オンライン上で同時配信することでテレビ放送の視聴時間が減ってしまわないか、ということが懸念されます。

まず、オンライン上の配信が消費者のメディア視聴行動にどのような影響を及ぼすのかを把握するために、日本よりも動画配信サービスが浸透している米国のメディア視聴状況に注目したいと思います。米国のOTTが視聴可能な世帯で19%はテレビで視聴されており、OTTでの番組視聴が幅広く浸透していることがわかります。

米国のメディア視聴動向をまとめているトータルオーディエンスレポートによると、米国の消費者のメディア接触時間は2018年から1時間24分増加し、1日約12時間はいずれかのメディアに接触していることが分かります(図表1)。スマートフォンがメディア視聴時間全体の伸びを牽引している状況ですが、18歳以上の消費者においてはテレビでの視聴時間も長く、重要なメディアであることに変わりないことが分かります。特に動画視聴においてはテレビの利用時間が最も多く、1日約4時間となっていました(図表2)。

消費者は新しいメディアに惹かれることから、有料動画サービス、無料の動画サービスの浸透が進むにつれて、日本においても米国市場のようにメディアの断片化が進むことが予想されます。その一方で、オンラインでの動画普及が進む中においても、テレビコンテンツを提供する企業がターゲットにあったコンテンツを継続的に提供すれば、テレビの利用が急激に減ってしまうことは考えにくいでしょう。

同時配信がもたらす動画市場の変化
同時配信がもたらす動画市場の変化

同時配信でテレビコンテンツのリーチを拡大

では、オンライン上でテレビコンテンツを配信することが、テレビでの視聴の減少につながらない場合、日本においてはどのような変化に期待できるのでしょうか?

同時配信を開始することで、テレビのコンテンツをテレビデバイスのない環境でリアルタイムに視聴することが可能になります。いよいよ今年は東京オリンピック・パラリンピックが開催され、NHKなどが同時配信を行う予定ですが、移動や外出などと重なって競技が見られない場合など、スマートフォンなどで同時配信により視聴する人も多くなるのではないでしょうか。実際、オリンピック観戦予定者のうち15%はオリンピックをリアルタイムにデジタルデバイスで視聴したいと回答していることから、同時配信に対してのニーズが一定数あることが分かります。

スポーツ以外のコンテンツでも、通勤中に朝のニュース番組を視聴する、お昼の休憩で昼の番組を視聴することなどが可能になります。日本のようにクオリティの高い無料コンテンツに対してのニーズが高い市場では、テレビコンテンツをオンラインで同時配信することで、テレビデバイスがない環境にいる消費者を取り囲むことが可能になり、テレビコンテンツのリーチ拡大が期待できるでしょう。

ターゲットに合わせたコンテンツの提供が重要

オンラインで提供されるコンテンツの量が増えるのと同時に、消費者のニーズにあったコンテンツを提供することの重要性が高まるでしょう。オンライン上でテレビのコンテンツを配信するだけでは、サービスを提供するプラットフォームが増えるだけで、需要を拡大するには不十分です。特にテレビ視聴時間が短くなっている若年層のリーチを高めるには、ターゲットにあったコンテンツが提供できているのかを見直す必要もあります。

有料動画サービスにおいては、多くの消費者は自身のニーズにあったひとつのサービスを選択する傾向があります。消費者は視聴したいコンテンツがあるからこそ各サービスを利用し、その傾向は同時配信でも同様でしょう。

日本では無料のテレビ放送が充実しており、無料で動画を視聴することが主流にはなっていますが、年々有料動画サービスの利用者数は増加し、昨年の12月には1,000万人を超える規模にまで拡大しました。それは無料で視聴できるコンテンツが豊富にある中でも、お金を払ってでも有料動画アプリで自分好みのコンテンツを素早く探し出すことに対しての価値を感じている人が増加していることを意味します。そのため、コンテンツは企業が消費者に一方的に「提供」するものではなく、消費者から「選択」されるものになってきています。豊富にある無料・有料動画コンテンツの中からテレビコンテンツが選択されることで初めて、リーチが拡大できます。

参入企業が増えるにつれて、動画市場においては消費者の可処分時間の奪い合いが激化することが予想されます。動画コンテンツを提供する企業やテレビ局は、消費者の可処分時間を獲得するためにも、消費者の動向や市場全体の動きを正確に把握し、それをもとにPDCAサイクルを回していくことが一層重要になるでしょう。