近年、オンライン動画の視聴環境は、利用できるサービスの数やコンテンツの種類が増えてくるにつれて、消費者にとってより利便性の高いものになっています。特にこの5年間、Amazon Prime VideoやNetflixなどの海外サービスを含む多くの動画サービスが国内で開始され、消費者は国内と海外の両方のコンテンツを便利に視聴することができています。
一方、動画サービス、例えばSVOD(定額制動画配信サービス)の提供側にとっては、動画市場への参入サービスが増えることは競争が一層激しくなっていくことを意味します。新規ユーザーを獲得し拡大するための戦略として、コンテンツを充実させていくことが考えられますが、海外の映画やドラマ、日本オリジナルのコンテンツも存在している中、優先的に充実させるべきコンテンツのジャンルを考えることが重要です。
人気コンテンツにおける言語の役割
動画コンテンツの人気には、多くの要因が影響しています。例えば、ドラマや映画であればストーリーや出演者、社会文化の背景、リリースのタイミングなどが挙げられます。そのような要因の中で、基本的でありながら無視できない要素として言語があります。なぜなら、映画やテレビ番組の場合、消費者はコンテンツに共感し、視聴を続けたいと思う前に、そのコンテンツがどのような話なのかを理解する必要があるからです。
言語は、価値観や、信念、習慣を伝達する手段として、文化を形成する上で重要な要素です。言い換えれば、共通の言語の場合、その言葉で伝える価値観や概念も、同じ言語を使う消費者の間ではより理解しやすく、共有される可能性が高いと考えられます。
ニールセンが7月に6か国(日本、韓国、マレーシア、メキシコ、オランダ、ベルギー)で行ったデジタル消費者調査 (2020 Digital Consumer Survey ;DCS)によると、ネットで視聴するドラマのジャンルにおいて、日本は他の国と比べて、より多くの消費者が国内ドラマを視聴することが分かりました(図表1)。
この結果については、言語が一つの要因になっていると考えられます。例えば、メキシコで一般的に使われているスペイン語は、メキシコ以外の多くの国でも使われているため、多くのメキシコの消費者が言葉の障壁がなく、メキシコ以外の国のコンテンツを視聴することができます。一方で、国内ドラマの視聴割合の高い日本と韓国の場合は、使用言語が自国内に限定されているため、より馴染みやすい国内のコンテンツへのニーズが高いと考えられます。
SVODサービスのユーザー拡大戦略
上記の調査結果から、「日本国内のオリジナルコンテンツを充実にすると良い」との結論を出す前に、SVODサービスを現在利用しているユーザーとインターネット利用者全体と比べて、異なる傾向が出ていないか確認する必要があります。同調査からは、テレビ番組や映画の視聴にSVODサービスを利用しているユーザー、例えばNetflixユーザーは、ネットでの海外ドラマの視聴割合が一般の消費者より高く、国内ドラマとほぼ同レベルになっています。
SVODサービスの既存ユーザーには、翻訳や吹き替え版の海外ドラマも人気があるため、それらの既存ユーザーを維持していく上で、引き続き海外コンテンツを拡充していくことは重要と言えます。 一方、新規ユーザーを獲得し拡大していくには、国内ユーザーにとってなじみやすい設定で海外の原作を日本でリメイクしたり、国内のオリジナルコンテンツを充実したりすることも有効な戦略として考えられるでしょう。