マーケティング担当者にとって、広告出稿ボリュームを決定する際に考慮しなければいけない外的要素は数多くあります。すでに多くのマーケティング担当者が影響を受けているCOVID-19などの社会全体の変化や、自動車業界などにおける半導体不足のような特定の業界における変化、また市場ごとの競合企業の動向など、さまざまな要素を把握した上で、自社の目標達成のために必要な出稿量を決定していくことになります。このような様々な外的要素は日々変化していくため、海外展開している日本企業の担当者にとっては、そのトレンドの変化をタイムリーに把握した上で、意思決定を行っていくことが重要になります。
実際、例えばオーストラリア市場における広告費のトレンドを見ると、大手グローバル自動車ブランドの広告費はオーストラリア市場全体(他のカテゴリも含む)のトレンドと同様、2020年の4-6月期以降は増加傾向にあります。しかし、日系の自動車ブランドの広告費のトレンドは、グローバルブランドのように市場全体と同じトレンドを描かずに、コロナ以前の水準には届いていないことがわかります。ブランド・エクイティが低下すると、特に競合他社と比べて広告費が低い場合は、将来の売上減少につながる可能性があります。商品の供給不足の際にコンバージョン目的の戦術を実行すると、コンバージョンした顧客への対応が滞った場合などにブランドに対する信頼を失う危険性がありますが、ブランド認知などのアッパーファネルの活動に注力することで、ブランドにとってのロイヤルカスタマーの維持とリード顧客層を拡大することができるでしょう(図表1)。
タイ市場においては、日系の食品、飲料ブランドはタイ市場全体と似たトレンドで一時期減少したものの、2021年にはコロナ前の水準に戻ってきています。一方で、グローバルブランドはより早いタイミングから広告出稿量を増やし、コロナ禍で外食が減少して家での食事が増えたなど、消費者の食生活の変化に対応したコミュニケーションを行っている様子が伺えます(図表2)。海外市場に進出している日系企業にとって、このような競合や市場全体の変化をいち早く把握することが重要です。
そして、競合他社の出稿量と比較しながら、自社の広告費を増やすべきかどうか判断する必要があります。例えば、広告費を増やす場合でも、単純に全体的に増やすのではなく、競合他社の出稿量が少ない媒体で自社の広告費を増やすなど、競合他社との差別化策を取り入れたコミュニケーションを取る方法を検討することも考えられます。実際、タイ市場の屋外広告費のトレンドを見ると、消費財カテゴリではコロナ前の半数程度の出稿ボリュームが続いていますが、耐久財などのその他のカテゴリではコロナ前の水準近くまで広告費が回復してきています、(図表3)。例えば、タイに進出している日系の飲料・食品ブランド企業は、競合が今回のように屋外広告比を増やしていないことを確認した上で、屋外広告への出稿を増やすことを検討すると良いで
私たちの生活環境は日々大きく変化しています。自国における変化を追うことすら難しい状況下、海外進出ブランドの担当者は遠い市場の消費者、業界の変化を随時追っていく必要があります。今回見たように、競合他社や他業界の広告費が増えているケースもあるでしょう。そのような場合は、競合や他業界の広告費を媒体別に把握した上で、より効果的な媒体を選定してコミュニケーションプランを策定することが、海外市場で成功する上で非常に重要になります。