コンテンツの選択肢が飛躍的に増大している今日の環境において、多額の製作費が投じられた大型テレビ番組、様々な新しく登場するテクノロジーの略語、さらにはストリーミング配信サービスやコンテンツに関するあらゆることが何かと話題に上がっています。しかし、どのようなオーディエンスが何を視聴しているか、どの OTT サービスが大作映画の封切と同時にストリーミングを開始するかなどの話題の背後には、従来のリニアテレビからデジタルへのバトンタッチが進んでいるという重大な事象があります。
リニアからデジタルへのシフトにはメディア消費も含まれますが、これはより大きな進化の一側面にしか過ぎません。パンデミックによって加速したコネクテッドテレビ(CTV)の利用は新たなコマーシャルモデルを生み出し、その結果、視聴オプションと同様にメディア業界の更なる細分化が進行しています。つい最近まで、メディア業界においては従来のコマーシャルモデルに基づいて価値が売買されていました。従来型のモデルは数十年間不動でしたが、高まる需要を満たすインターネット接続デバイスや付随サービスの普及拡大により、従来のリニア体験には存在しなかった、新たな収益化の機会が創出されています。
収益化の機会が事前に編成されたリニア番組の中に流れる広告の売り買いに限定されなくなったということは、大きな意味を持ちます。ただし、従来の収益化の機会が存在しなくなったという訳ではありません。リニアテレビは依然として、マスオーディエンスへのリーチを獲得するには最良の方法であり、全世界の従来型のテレビ広告費は、他のメディアに比べてパンデミックの影響から大きな回復を見せています。テレビという大きなくくりの中に新たな形態が登場したことになりますが、新しいと言っても家庭内で最も価値の高い52インチの面積を占める物理的なテレビセットに接続されているということに変わりはありません。
インターネット接続によりテレビセットに配信されるコンテンツと定義されるCTVは、動画領域における収益化の機会を大きく拡大し、CTVそのものの種類も増加しています。一部の市場においては、CTVは至るところで視聴される状況に近づいています。米国を例に取ると、ニールセンのデータでは、CTV は毎週ほぼ1億4200万人の成人にリーチしています。西ヨーロッパ諸国では、OTT加入者は 2022年にほぼ 1億8700万人にまで増加するとeMarketerは予測しています。
CTVを介して直接消費者に接触することができるため、テレビネットワークや放送局、新たなメディア企業は2007年にサービスを開始したSVOD(定額制動画配信サービス)のパイオニア、Netflixが確立した手法に則り、D2Cサービスの構築や獲得に投資を行っています。現在、OTTやCTVの選択肢はSVOD領域を越えて拡大しており、ComcastやVerizonのようなMVPD (多チャンネルサービス)、YouTube TV、fuboTVやSling などのvMVPD (スマートフォンを含むインターネット経由でテレビ局コンテンツを生放送する多チャンネルサービス)のいずれかを利用する広告付VODやライブストリーミング配信が含まれます。
従来の SVODプラットフォームを除き、CTVやアドレサブル広告は新たな機会をもたらすものの、これらは多くのマーケティング担当者にとって未知の領域となっています。メディア投資会社のGroupMは、CTVの全世界の広告収益は 2026年には310億ドルを超えると予測しています。しかし従来のモデルには存在しない多角的な広告選択肢を前に、多くのマーケティング担当者は戸惑っています。ニールセンの 2021 Annual Marketing Reportを見ると、小規模から大規模予算をかかえるブランドのマーケティング担当者の46%は、CTVマーケティング戦略の採用に向けた課題として「社内の知識不足が存在する」と回答。さらには大規模予算(1000万ドル超)をかかえるブランドのマーケティング担当者のほぼ半数(47%)は、「CTVの測定」を課題として挙げていました。しかし、同じ割合のマーケティング担当者が、リニア番組でのリアルタイムターゲティング広告が今後重要であるとも述べています。
さらに CTVは、コンテンツを越えて商機を拡大しています。例えば消費者にアクセスするにはテレビを筆頭とするデバイス(およびデータ)が必須となるため、家電メーカーは再び大きな注目を集めています。現在生産されているテレビはインターネット接続が可能であることから、オンラインコンテンツへのアクセスを提供するために、数々のOTTデバイスが出回っています。コンテンツのデリバリーや接触を容易にすることに加え、家電メーカーは 1回限りのハードウェア販売の収益に頼るよりも、広告やアクセスの提供を販売するメリットを認識し始めています。
また CTVの進化により、様々なマーケティングテクノロジー製品が登場しています。これらの製品は、企業がCTVの進化を追跡し、進化を先取りするための支援を行うものです。マーケティングテクノロジー業界は現在、8000ものソリューションを提供していますが、これは 2014年の8倍になっています。マーテックソリューションの増加は、CTV領域をさらに複雑にしています。
デジタルは、テレビ業界にとってまさに新境地であり、新たなイノベーションが登場するたびに囁かれる「テレビの終焉」という懸念に対し、筆者はノーという回答を提示します。テレビは未だに健在で、コンテンツクリエイター、配信事業者、広告主、家電企業、広告エージェンシーや消費者に対し、数多くの機会を生み出しているからです。