日本において、デジタル広告費がテレビ広告費を上回ってから3年*が経ちましたが、デジタル広告は消費者とのコミュニケーションを取るための様々な機会を提供する一方で、マーケティング担当者が解決すべき課題も多くあります。これまではデジタル広告を配信する上で、サードパーティークッキーなどのデジタル識別子を活用したターゲティングが主流でしたが、クッキーレス化が進む中、ターゲティング設定やリーチ、フリークエンシーをコントロールすることはますます困難になってきています。これらの課題に対処すべく、広告支出をプログラマティック広告から予約型広告に転換を始めているマーケティング担当者もいるのではないでしょうか。
従来型携帯電話からの転換で、スマートフォンの利用は65歳以上の消費者で増加していることから、シニア世代とコミュニケーションを取る手段としても、デジタルメディアの重要性が高まっています。また、シニア世代に加えて、Z世代は労働人口に加わり購買力が高まることが期待されることから、若い世代にも多くのマーケティング担当者の注目が集まっています。デジタル上の行動は世代によって大きく異なり、効果的にターゲットにリーチするためには、それぞれの世代の動向を把握することが不可欠です。これまでプログラマティックを活用し、ターゲティング広告をメインで出稿していたマーケティング担当者であれば、各メディアを利用するオーディエンスの理解を重要と考えるよりも、ターゲティング設定の調整により重きを置いていたでしょう。しかし、予約型広告を配信する上では、メディアのオーディエンス特性を把握し、広告キャンペーンのターゲットに適したメディアであるかを判断することが重要になります。
デジタル広告を配信する上で、SNSや動画サービスなど幅広い年代に利用されているメディアを中心的に活用しているマーケターも多いのではないでしょうか。しかし、同じメディアに注目しすぎると、より効果的にリーチし、高いエンゲージメントを確保できるメディアを見逃している可能性もでてくるため、各世代のスマートフォン利用の全体像も把握することが重要になります。例えば、Z世代とシニア世代の、アプリとブラウザの利用状況をみると、利用時間ではどちらの世代でもアプリの割合が高くなっていますが、シニア世代ではZ世代と比べるとブラウザの利用時間シェアは2倍以上になっています(図表1)。 つまり、アプリから使用されることの多いメディアのみがメディアプランに含まれている場合、シニア世代にリーチする貴重な機会を失っている可能性があることを意味します。
メディアを選定する際には、各メディアが発表している媒体資料を活用してメディアプランをたてることが多いのではないでしょうか。しかし、オーディエンスデータの指標はメディアによって異なっていることが多く、各メディアのオーディエンスを直接的に比較できないことが課題になっています。そのため、オーディエンスを横並びで比較可能な、代表性が担保された第三者機関が提供するメディアデータをあわせて利用することが重要です。そうして初めて、マーケターはターゲットとしている消費者がどのようなサービスに時間を費やしているか、そしてどのようなメディアをメディアプランに取り入れるべきかを可視化することが可能になります。
実際に、デジタルネイティブであるZ世代がスマートフォン利用時間の大半を「エンターテイメント」やSNSなどが含まれる「サーチ、ポータルとコミュニティ」に費やし、それぞれスマートフォン利用時間の43%、24%を占めていました。一方で、シニア世代では異なる傾向が見られます。シニア世代も「エンターテイメント」と「サーチ、ポータルとコミュニティ」には多くの時間を費やしていますが、若年層と比べるとその割合は少なく、それぞれ22%、19%となっていました。また、65歳以上は「ニュースと情報」にスマートフォン利用者全体と比べると2倍以上の時間を費やしていることがわかります(図表2)。
また、キャンペーンの目的によっては、効率的にターゲットにリーチするだけでなく、エンゲージメントを高めることが可能なメディアを選定することも重要になります。このような場合は、どのようなサービスが各世代に特徴的に利用されているかを把握する必要もあります。
利用者数上位5位のサービスを年代別に見ると、「Google」、「LINE」、「YouTube」、「Yahoo Japan」がどの年代でも上位に含まれていますが、各年代が特徴的に利用しているサービスを見ると、年代によって異なる傾向があることがわかります。Z世代では「Zenly」、「Discord」、「pixiv」などのサービスを利用する傾向がある一方で、シニア世代では、ニュース関連サービスが上位にランクインしています(図表3)。
このように比較可能なオーディエンスデータを活用して、ターゲットとしている消費者の特徴やどのようなカテゴリーに時間を費やしているのかを把握することで、より効果的にコミュニケーションを取り、ブランドの価値を高めていくことが可能になります。
当社シニアアナリストのコヴァリョヴァ・ソフィヤは、次のように述べています。「サードパーティークッキーが段階的に使用できなくなるにつれ、マーケティング担当者はサードパーティークッキーに依存したターゲティング戦略から脱却するために様々なアプローチをとる必要があります。 その一つの方法として、予約型広告を活用することが挙げられますが、これを効果的に活用するためには、各メディアのオーディエンス特性を把握することが重要になります。クッキーレス時代のデジタル広告に関わるマーケティング担当者に必要なデータやインサイトは、これまで慣れ親しんできたものとは異なります。予約型広告をメディアプランに組み込む際には、メディアが発行する媒体資料を基に検討することに加え、横並びで比較が可能な第三者機関の提供するメディアデータを活用することの重要性は今後も増してくるでしょう」。
*出典:「2019年 日本の広告費」株式会社電通 ニュースリリース 2020年3月11日