ブランドマーケターが直面する多くの課題の中でも、デジタル広告を配信する上でのサードパーティークッキーを活用したターゲティング依存からの脱却は上位に上がってくるのではないでしょうか。そしてクッキーレス化が進む中、ターゲティングだけでなく、更にはリーチとフリークエンシーのコントロールもますます困難になってきています。フリークエンシーの重要性は見落としがちですが、過去の記事にもあるように、ブランドにとってキャンペーン目標を達成する上で重要な役割を持つ指標になります。特に、リーチとの関係性も高く、キャンペーン目標を実現するためには、リーチとフリークエンシーそれぞれのバランスが重要になります。同じ予算の中で実施されるキャンペーンでも、リーチを最大化する場合にフリークエンシーは低く設定される一方で、ブランドメッセージの想起を高め、利用意向を促すことが目標の場合、一人あたりが広告に接触する回数を高く設定する場合もあるでしょう。キャンペーン目標を達成するには、目標通りの回数で広告に接触することをメディアプランの中に取り入れるだけでなく、その目標が実際に達成できているのかを検証することも不可欠です。
フリークエンシーキャップは、キャンペーン目標で設定された接触回数に応じて、同じ人に一定回数、同じ広告が配信されたら、それ以上は配信しないように制限することを目的としています。多くのメディアで広告を配信する際にフリークエンシーキャップを設定することが可能ですが、一人の「人」ベースで配信の制限がされるわけではなく、端末やブラウザ単位で配信の回数制限がされています。また、フリークエンシーキャップを実施するためにクッキーなどのデジタル識別子が使用されていることから、サードパーティークッキーの使用制限が進むとともに、配信した広告が既に同じ人に配信されていたかどうかを判別することが更に困難になります。
一人の「人」が広告に接触する回数は、クッキーレス化が進むことで意図した回数よりもはるかに多くなることが考えられます。実際に既に消費者にも影響は及んでおり、「ニールセン デジタル・コンシューマー・データベース2021(Nielsen Digital Consumer Database 2021)」によると、過去1年で何回も表示される広告が増えた、または興味のない広告が表示される機会が増えたと感じる人はインターネット利用者の44%に上ります(図表1)。
では、サードパーティークッキー規制は実際にどのようにしてフリークエンシーに影響を及ぼすのでしょうか。特定の年代をターゲットにしたキャンペーンを実施した場合、クッキー規制がかかったブラウザを使用するユーザーには、既にクッキーレスの影響でターゲティングが困難になっています。ターゲティングができない場合、その人たちを対象にフリークエンシーキャップを設定することもできません。つまり、サードパーティークッキー規制がかかったブラウザを使用する消費者は、一定期間ごとにサードパーティークッキーがリフレッシュされ、リフレッシュされる度に新しいクッキーが作成されます。実際には同一人物であっても、クッキーがリフレッシュされてしまうことから、デジタル領域においては別の人物であると識別されてしまい、繰り返し同じ広告が表示されることとなります。
現状、Androidよりも規制が厳しいiOSユーザーは特に影響を受けやすく、配信されたインプレッションの多くがiOSに配信されてしまっている可能性も高いでしょう。フリークエンシーキャップが一部のユーザーにかけられないことから、繰り返し広告が同じ人に配信されていると、配信された多くのインプレッションはiOSに偏って配信される可能性が考えられます。マーケターがメディアプランで各サイトやプラットフォームでフリークエンシーキャップを設定していたとしても、消費者が実際に広告を見た回数は想定しているよりもはるかに多いことが考えられます(図表2)。
意図せず過剰フリークエンシーとなっている場合には、以下2つの課題が生じます。
1.無駄になる広告費
広告のインプレッションが同じ人に繰り返し届いていると、場合によっては予算が効率的に使用されていない可能性があります。例えば、キャンペーンの目的が認知を広めることであった場合、リーチを最大化することが重要になりますが、同じ人に繰り返し広告があたっていてはキャンペーン目的を達成することはできません。同じ人に繰り返しリーチするために使用された広告費は、別のメディアを使って配信していたほうが、インクリメンタルリーチを拡大し、より効率的にリーチを獲得することに繋がっていたことでしょう。同時に、フリークエンシーが高くなると、目標としていたリーチ人数に達していないことも考えられます。リソースが限られている中で、キャンペーン効果を最大化するためには、リーチとフリークエンシーのバランスを考え、目標に合わせて最適化することが重要になります。
2. ブランド毀損
接触回数が多すぎる場合には、ブランドを嫌いになるきっかけとなり、ブランド毀損のリスクも高まります。実際、「ニールセン・ビデオコンテンツ アンド アド レポート 2021(Nielsen Video Contents & Ads Report 2021)」によると、動画広告視聴後にブランドを嫌いになった人の63%は、過剰なフリークエンシーがきっかけであると回答しています。 消費者はプライバシーの向上を望んでいる一方で、同じ広告が繰り返し表示されないなど、高品質のメディア視聴体験も期待しています。ポジティブなメディア視聴体験を実現し、広告効果を最大化するためも、様々なサイト、プラットフォーム、デバイス間横断でリーチだけでなくフリークエンシーを計測する必要があります。また、それらはデジタル識別子ではなく「人」ベースで結果を計測することが重要です。サードパーティークッキーの使用が段階的に廃止されるにつれ、実際の結果を測定し、必要に応じて適切な調整を行うことの重要性は増していくことでしょう。