デジタル広告業界においては、サードパーティークッキーが利用できなくなりつつある中、広告を狙ったターゲットに届けることが、引き続き大きな課題となっています。そのためクッキーレスの影響を受けない配信方法を活用するだけでなく、広告の配信状況を計測し、適切なオーディエンスに広告が届いているかを確認することが、これまで以上に重要になっています。また、最近の15のブランドの合計82のデジタル広告のキャンペーンを対象としたアメリカにおけるニールセンの調査結果の分析によると、狙っているターゲットに広告を配信することでキャンペーンのROIが向上しており、オーディエンスベースのリーチ計測指標がキャンペーンのパフォーマンスの重要な指標となることが確認されました。
クッキーレスの影響を受けてターゲティング精度が低下している可能性を懸念するマーケティング担当者にとって、キャンペーン期間中の最適化は、キャンペーンのパフォーマンスを向上させ、ROIを改善させるために不可欠なものとなりますが、最適化のプロセスは正確なキャンペーンの計測から始まります。
近年コネクテッドTVからの動画視聴が増加し、マーケティング担当者にとって完全視聴獲得単価(CPCV)は動画広告における重要なKPIになりつつあります。CPCVに加え、実際のキャンペーンでは別々に計測されることも多いオンターゲット率を組み合わせた場合、キャンペーンの計測が少し複雑になる一方で、キャンペーンを改善するための新たな視点を得ることができます。ターゲットオーディエンスほど広告内容に関心が高いと想定されるため、オンターゲット完全視聴獲得単価(オンターゲットCPCV)を算出し最適化することで、ROIの改善が期待できると考えられます。
例として、男性20-34歳をターゲットとし、8週間に渡り3つの媒体にデジタル広告を出稿するキャンペーンについて考えてみましょう。キャンペーン開始から2週間経過した段階で、媒体3のオンターゲットCPCVが最も低くなっていたとします。オンターゲットCPCVにおいては、コストが低いほど効率が良いということになるため、キャンペーン期間中に最適化を行う際には全体のオンターゲットCPCVを下げる必要があります。今回の例では、キャンペーンの後半は媒体1、2に割り当てていた媒体費用の全額、もしくは一部を媒体3に再配分することで全体としてのオンターゲットCPCVを低下させることができ、結果として、媒体費用を増額することなく、同じ予算内でより多くのターゲットに動画広告を視聴してもらうことが可能となります。
今回の例において、CPCVだけを見て最適化を図ると、媒体1に予算を再配分することになりますが、オンターゲット率も併せて考慮しないと、より多くのターゲットに完全視聴してもらう機会を逃すことになります。
キャンペーンを最適化する方法を把握することは最初のステップに過ぎません。媒体によってはキャンペーン開始後に媒体費用の再配分ができないケースがあるため、実際にキャンペーン期間中に再配分することが難しい場合もあるかと思います。開始後に媒体費用が変更できない媒体を含むケースでも、変更が可能な媒体のうちパフォーマンスの高い媒体に再配分したり、1つの媒体内で複数の設定で出稿しているケースであれば、その配信設定間で再配分したりすることが可能です。
マーケティング担当者は媒体費用の再配分だけでなく、配信条件を変更することでも、費用を最大限に活用できるケースがあります。例えば、サードパーティークッキーが活用できなくなりつつある中で、キャンペーンによってはオンターゲット率が低くなることもあるでしょう。そのような場合、キャンペーン期間中にターゲティングに用いるデータソースをより精度が高くクッキーレスの影響が小さいものに変更することで、ターゲティングの精度を高め、狙っているターゲットにより多くリーチすることもできます。
マーケティング予算を最大限に活用し、より多くのターゲットにリーチし、より高いROIを実現するために、マーケティング担当者は日々工夫しながらデータを活用していくことが重要です。キャンペーンの最適化は新しい手法ではありませんが、クッキーレス時代のマーケティング担当者にとっては、業界の変化や競合に打ち勝つために、環境の変化に対応できる計測方法や指標を用いてキャンペーンのパフォーマンスを上げていく必要があります。
ソース
1オンターゲット率 = 全インプレッションのうちターゲットの性年代に到達していたインプレッションの割合
2オンターゲット完全視聴獲得単価(オンターゲットCPCV) = 媒体費用 / (動画視聴完了数×オンターゲット率)
例:媒体費用が100万円、1万ターゲット視聴完了の際は100万円 / 1万再生数 = 100円